「ぐっさりやっちゃっていいんだよね?」
「あ、あぁ!どんとこい!」
「じゃあ…」
「あっあっ、ちょっとタイム!」
「何、この手は。ていうか何度目」
「これってやっぱり消毒とかしたほうがいいんじゃないのかな!?」
「んなの舐めればいい話」
「おっぎゃー!?何でそこで舐めようとするんだよ!」
「消毒したほうが良いって言ったのあんたじゃなかった?」
「消毒って言うのはなぁ!消毒液のことを言うんだよ!舐めるな!変態っ」
「パトリックに言われるなんて心外。私の心は海よりも深く傷つきました」
「簡単に傷つくタマじゃねぇだろお前。や、やっぱりこれ痛いよな、俺止めようかな」
「思い切りが悪いね、相変わらず」

俺、ピアスデビューするんだ!そう高らかに宣言しながらパトリックが真新しいピアッサーをに渡したのはまだ日の高い午後二時少し前。誰に入れ知恵をされたのか元々興味があったのか真意は本人にしか分からないが、は特に追及することなくその近くのドラッグストアで買ってきたのだろうピアッサーを受け取った。ぶっすりやってくれよ!と最初は意気込んでいたパトリックだが、徐々に恐怖が滲み出てきたのかがパッケージから中身を取り出しいざやろうという時になって「待った!」やら「い、痛くないよな!?」と散々ごねて今更何を言っているんだこいつとに冷たい視線を送られた。そんないざとなって尻込みするパトリックの性格なんて幼いときから共に過ごしてきたといっても過言ではないは熟知していたので、数回に渡る待ったに律儀に応えていたのだがそろそろいい加減にして欲しい。忙しいということはなくむしろ暇であったのだがなんだかパトリックの相手をしていては時間の無駄のように思えてきたからだ。

「待て待て待て!深呼吸するから!……、…よしっ、こい!」
「はいはい」
「…うっ、あ、やっぱ…」
「もう待たん」
「えっ、ちょっ、ぎゃっ、やめ」
「暴れるな。大人しくしてればすぐ済むから」

もう一回待てがかかったら強行突破しようと心で思っていたはパトリックの抵抗なんてなんのその。幼馴染の強引な行動に驚きつつも上手く抵抗できなかったパトリックは横倒しにされそのまま馬乗り状態のを信じられない目で見つめた。ついでに手も片手で纏められた。あれ、なにこの状況。

「ちょっ!お前本当待てってば!!」
「このままだと日が暮れるからね、チクっとするだけですよー」
「ひぃぃ!やめてェェ!!」
「暴れるなって、手元狂うから。それとも痛いほうがいいのかなぁ」
「イヤアアア!」
「生娘か」
「襲われるううう!!」
「誰が襲うかっつーの。あんたから言って来たんでしょ。…それ以上暴れたら必要以上に痛くしちゃうかも」
「うわぁぁ!うっわあああああ!!目が怖い!目が怖いって!」
「いやあ、嫌がるパトリックは面白いなぁ、って」
「サディストかよ!?」
「そうかも。新しい扉を開けてくれてありがとうパトリック」

言うと同時かそれよりも早いかは最初に言っていた通りぐっさりといった。片方を貫通させて放心状態のパトリックには気にせずもう片方もばつん。一仕事を終えた心地になり満足気に馬乗りをしていた男から降りた。少々恨みがましい視線が送られてきているのは気にしない。だって最初からそのつもりで来たんだろう?

「…なんだか無理矢理犯された気分だ」
「私は満足よ」
「ケダモノ!」
「ふははは、なんとでも言うがいい」

少し痛むのか、しかし想像していた以上の痛みではなかったらしくパトリックは両耳をそっと触ったがすぐににやめろと引き剥がされた。

「痛い?」
「少し」
「舐めてあげましょうか」
「御免だ変態女」

本気か冗談か分からない台詞にパトリックは顔を背けた。何時まで経っても自分を子供みたいに扱うところが嫌だ。自分だってもう結構なんでも出来るし、士官学校でだって実技では負け知らずのスーパー様なのに!

「俺、今度MSに乗るんだからな!」
「え、そうなんだ。おめでとう。壊しちゃ駄目だよ」
「はっはぁ!シュミレーションじゃ負け知らずの俺様がそんなミスするわけねーだろ!」
「ははは、世も末だ」
「どういう意味だ!」
「世の中には知らなくてもいいことはたくさんあるんだよ」
「くっそぉ!お前には俺ぜってー負けないからな!」
「パイロットとオペレーターとでなにを競い合うのやら」
「俺はエースになる男だからな、だからお前も出世しろよ!分かったな!?」
「勝負になってないじゃないか…。ま、面白そうではあるけど。ふっ…、言ったからには必ずなってよ?嘘つく男は大きくなれないからね?」
「誰にモノ言ってんだ、このパトリック・コーラサワーに向かってっ!」

必ず軍のエースパイロットになって、ぎゃふんと言わせてやるぜ!

パトリック・コーラサワーの名前がお調子者だが腕はいいとAEUの軍内に上がり始め、・ラーサがある戦術予報士に惚れ込み弟子入りするのはもう少し先の話。一人の大佐を巡り、ある幼馴染が毎日のように喧嘩をするのはもっと先の話。これはそんな二人の少し幼いころのある日常の話。


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