「おい、いつまで寝ている気だ」

手の中にある本から手を離し、ティエリアは視線をシーツに包まって寝息を立てているに向けた。先程から何度か声を掛けているが起きる気配は全く無い。たまにごそりと動くがそれは無意識のことであり、起きたというわけでは無い。いい加減同じ体勢でいることに苦痛を感じ始め、しかし動くことの出来ない状況に思わず舌打ちをしそうになる。をほったからしにして相手をしていなかったティエリアにも非はあるが、人の都合も聞かずに行き成りやってきて相手をしてくれとせがんだにも非はあるだろう。ちょうど本を読んでいたこともあり無視をしているといつのまにか不貞腐れたのかはティエリアの太腿を枕にして寝息を立てていた。ベッドが横にあるだろうに、どうしてこいつは固くて気持ちよくなど無い男の膝枕で寝ることを選んだのだろうか。

生憎本も先程読み終わり、手持ち無沙汰になったティエリアはの髪を一房摘み、そのまま弄り始めた。緩いウェーブのかかった髪は柔らかく手触りもいい。少しだけ、もういない人間を思い出したが、の間の抜けた顔を見ているとどうしてか笑いがこみ上げてきた。薄っすらとの目が開いたような気がして、ティエリアは掴んでいた髪を引っ張った。

「いったぁ!?」
「いい加減起きろ。いつまで寝ている気だ」
「あ、…ティエリア、」
「なんだ」
「おはようのちゅー」

ぐいっ

「ぎゃー!抜ける禿げる!!」
「馬鹿なことを言っていないで目を覚ませ」
「うう…寝起きの人間に対してなんて酷い」
「どいてくれ、重い」
「……」

「どうした」
「…ちゅー」
「まだ言うか!」
「いぎゃー!何で何で!たまにはティエリアからしてくれたっていいじゃない!」
「黙れ!」

膝の上からどかないままにしくしくと泣き出したをティエリアは溜息交じりに見、無理矢理上を向かせて唇を重ねた。…やはり嘘泣きだったか。離れてもはぽかーんとしたままで、ティエリアはいらいらした。俺が折角動いてやったのに、何の反応も返さないとはどういうわけだ。

「どうして目開けたままするの?」
「お前の馬鹿面を見るためだ」
「酷い!スイートラブに向かってなんてことを!」
「起きただろう、足が痛い早く起き上がれ」

頭をばしばしと叩きながらそう言うと、は慌てたように起き上がり、ティエリアが立ち上がろうとしたところを上から覆いかぶさるようにして防いだ。なんだとにらまれるが、折角久しぶりにティエリアからキスしてくれたのだ、このままもう少しいちゃいちゃしてみたい。は目を瞑ってちゅっ、とティエリアに被さった。そのまま肩を押すと予想外に強かったらしくごん!と何かが床にぶつかる音が聞こえたが怖かったので確かめることはしないでそのままティエリアの上でティエリアの発言権を奪い続けた。

そろりと瞳を開いてみると、ぎゅっと目を瞑ったティエリアが見えて、ああ、確かに相手の表情は見ていて楽しいなぁ、と思った。つんつんと舌でティエリアを突いてみると簡単に隙間が開いてその中にお邪魔した。小さな声が下から聞こえてきて、なんだかいけないことをしているような気持ちになる。実際しているのだが、まぁ、セーフだろう。段々とティエリアの頬に赤みが差してきて、目にも涙が溜まってきた。なんて色香だ、ともう少し見ていたいと思ったところでティエリアが薄っすら目を開き、すぐに驚愕の表情になって突き飛ばされた。

「ぎゃあ!」
「な、な、なんで目を開いているんだ!」
「ティエリアだってしてたじゃない」
「君はいつも瞑っているじゃないか!」
「ティエリアが開いてたから私もしてみようかなって。確かにこれはいいね、癖になる」

が見せ付けるように唇を舐めると、ティエリアは一層赤くなって立ち上がり、出て行こうとした。が止めようか迷っているとドアまで行ったティエリアが戻ってきて、の腕を掴んでベッドへと投げた。ぎゃあと女らしくない悲鳴を上げると同時に今度はティエリアがの上に乗りあがり、抵抗できないようにと押さえつけた。

「ティ、ティエリアさん?私やりすぎちゃった?」
「黙れ。…目を開けるな」
「あ、…ん」

ティエリアの顔が近づいてくる直前に見た彼はしっかりと目を瞑っていた。それほどの好きにされたのが悔しかったのか、しかしそれはそれでティエリアは気持ちよさそうな顔をする。ティエリアの表情は見えない、彼もの表情は見えていないだろう。たまにはこういう日もあっていい。(やられっぱなしが嫌だなんて、可愛い意地っ張りだこと)




メリーゴーランド・ヘヴン

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