「猫か」

 開口一番にそう言い放ったクロロに、食肉目ネコ科の哺乳類に例えられた二人組の内の一人があまり興味がなさそうにお前は何を言っているんだとでも言いたげな視線を向けた。そんな視線を受けてクロロは苦笑いをし、イルミの膝の上で丸まる様にして眠るを指さすとイルミはようやく合点がいったかのようにああ、と頷いた。本当は親子のように丸まり甘える二人をワンセットで猫に例えたつもりであったが、イルミからしてみれば自分はそれに含まれていないらしい。変に拘っても意味が無いので深く突っ込むのは止めて近くに座る。

「ヒソカは?」
「今日休みだと」
「おー、クロロだ。ふぁあ、おはよう」
「よくそんなところで寝れるよな」
「意外と寝心地がいいのさ。いい匂いするし。あっなにお菓子買ってきてくれたんだ」

 許可を取らずに袋の中を漁るの手から袋を取り上げて、イルミは開封してその中身をの口に放り込む。それを受けては再びイルミを背もたれにするような体制に戻り、クロロは呆れたような視線を二人に向けた。それに気付いてイルミは先ほど言われたことを思い出した。

「そういえばクロロがお前のこと猫みたいだってさ。鳴いてみなよ」
「なにその変態発言ドン引きにゃー」

 イルミの手から菓子をもりもりと食べながらもノリノリで語尾を変化させると、なにやら満足そうなイルミを見てクロロはやはりこいつらは猫の親子ではなくサカリのついたつがいだと認識を改めた。

「おーうクロロ、酒が無いぞー」
「馬鹿か。流石にこんなところで飲めるか」
「そうだよ、お前この前見つかりそうになってただろ」
「いやあその節はお世話になりました」

 笑いながらも行動を改めないところを見ると反省はしていないようだ。しばらくくだらない話に花を咲かせ、再び袋を引き寄せたところでは衝撃的な事実に気付いた。

「もうお菓子ないや」
「お前が馬鹿みたいに食べるからだろ。太るぞ」
「ちゃあんとカロリー消費してるから大丈夫だし」
「俺イムラ屋のケーキ食べたい。クロロ買ってきてよ」
「そういえばコンビニの近くに出来たんだよね。私も食べたいー」
「なんで俺なんだ。一番食べてたが行くべきだろ」
「いやあ行きたくてもイルミが手を放してくれなくって」
「それじゃあ仕方ないよね。もうクロロが行くしかないよね」
「お前ら…」
「ほら、金は俺が出すから」
「そういう問題じゃなくってだな…」
「あのお店、プリンがおいしいってのでも有名だよ?でも高いからねー」
「好きなだけ買ってもいいよ」
「行ってくる」

 イルミの財布を掴み今日一番の笑顔でクロロは立ち上がった。ドアを閉めるところまで見届け、は先ほどから抱いていた違和感に少し尻を浮かせて体勢を変える。

「イルミさぁん」
「ムラムラしてきた」
「うんなんかさっきから当たってるとは思ってたけどね」

 真顔で欲情してくるから心臓に悪いわあ、と特に逃げる素振りも嫌がる素振りも見せずにはイルミの胸板に頭をぐりぐりと擦りつけて煽るような目つきで見上げる。

「なに、いいの?」
「よくないよ。すぐクロロ戻ってくるじゃん」
「ああ、そう言えばそうだった。見せつけるのも独り身のクロロに悪いしね」
「ねー。寄ってくる女多いのになんですぐに振られるんだろうねえ」
「まああの性格じゃね」
「それイルミが言うんだ…?ああ、そういえばヒソカも今女居ないんだよね」
「あれはアイツが飽きるのが早いだけだろ」
「うへえ、それであの性欲の強さは怖いわあ。てかヒソカ友達の女って知ってても欲情できるんだよね、前一緒に遊んだ時今みたいな状況になってさあ」
「え?」
「ん?あっ、いっけね つ!?っぎゃああっむぐお!!?」

 行き成り胸を尋常じゃない力で掴まれ驚きと痛みで女に有るまじき叫び声を上げかけたの口をイルミは素早くもう片方の手で塞ぎ、暴れるの抵抗など抵抗の内に入らないと言わんばかりに乱暴に掴んだ肉を揉みしだく。

「うぐっう、いうっ、っふうう、んぐっ」

 加減を知らない力強さには顔を苦悶に染めるがイルミはそんなことはお構いなしに口を押さえる手も揉みしだく力も更に強くする。流石に抗議の声を大きくするがそんなのどこ吹く風で、は放り出された菓子たちをせめて踏まない様にとするだけで精いっぱいな状態にまで追い込まれた。

「っううう、んっ、んううううっ」

 やばい、ちょっと気持ち良くなってきた。なにも考えずに乱暴に揉んでいるようでいて緩急のタイミングは絶妙だし先っぽだけは優しくつまんでくるしでは痛みと快楽の狭間で揺れ動く。いつの間にか口を塞いでいた指は口内へと入っていて、歯列をなぞったり舌に絡みつかせたりと好き勝手に動き回る。まるでセックスの最中のような雰囲気に頭の中がぼうっとしてきたところでぞっとするような声音で問われた。

「いれられてないよね?」

 耳元で冷ややかに囁かれてはコクコクコクとただそれだけをするために生まれてきた生き物のように首を縦に振る。ここでなにを?などと言ったカマトトぶった反応を返すほどは純情ではなかったし、この剣幕のイルミにそう返す勇気も無かった。そう、よかった。と平坦な声が後ろからしたと思うとようやく口を解放されて、ぜいぜいとは肩で息をする。口の周りがよだれでべとべとなのは今は気にしている余裕はない。だが流石に汚れた指をのブラウスで拭かれたのは文句を言ってもいいだろうと思った。

「あーよかった。もし二人がやってたらを犯して殺してヒソカのアレをちぎるところだった」
「これがうわさのヤンデレか…」

 いつの間にか外されていたブラウスのボタンを閉めながら今後はウッカリなんでもかんでも口に出しちゃうのは止そう、とは心に誓った。

「なんで閉めてるの」
「へ?」
「許したって、俺言ったっけ」

 全身から冷や汗が噴き出た。

「流石にアオカンはいやだああ」

 逃げ出そうと立ち上がったところで先ほどの愛撫で腰砕けになっていたに勝ち目はないことは目に見えていて、当然のように走り出す前に足をイルミに掴まれてバランスを崩したはそのままコンクリートに倒れこむ。そのままイルミにマウンティングポジションを取られて身動きが取れなくなった。マジか。マジでこいつここでやるつもりか。と内心冷や汗が止まらないがそんなこと知ったこっちゃないとでも言うようにイルミの手は太ももを撫で上げスカートの中に侵入する。

「ぎゃああああ」
「うるさい」
「いたたたたいったい!」

 うつ伏せの状態で暴れてもあまりイルミには抵抗にならなかったようだがうるさくはあったらしく、頭を掴まれて強く地面に押さえ付けられて頭蓋がギシギシという音を立て始める。マジで容赦ないなこの男!と足で股間を蹴りあげようとしてもしっかり押さえられていてそれは叶わず、両腕は一本の手だけで捻りあげられてピクリとも動かせない。再び行為を再開させようとイルミがの頭をはなしたところでは最大のチャンスとばかりに今ある全ての力を振り絞って仰け反り頭突きをかました。予想以上に力が入ったらしく自分にもかなりのダメージを受けたが少し緩んだ拘束から両腕を救い出すことには成功し、そのまま身体もイルミの下から抜け出そうとしたところで肩を掴まれてそのままブラウスを縦に引きちぎられた。

「いぎゃああなにすんだあああ!!?」

 替えのブラウスなんて持ってきてねーぞ、と心の中で叫んで思わずイルミの顔を見ると、一筋赤い線がイルミの顔に引かれていた。イルミは破り取った布で鼻を押さえるが、どうもナイスな位置にの頭突きは入ってしまったらしく止まる様子は無い。

「あー…なんかごめん」
「ホントにね」

 なんだか抵抗する気力も失せてしまっては力を抜いて地面に仰向けで転がった。もういいやクロロに見せつけてやるホントこいつら私がいるときでも構わず下ネタ連呼するんだからこれくらいもう大丈夫な気がしてきた。と諦めの境地に達したところで、屋上のドアが開く、ギイという音が聞こえそこに立っている人物と目が合った。

「…俺のいない間に何があった」

 は倒れこみそのブラウスは無残にも破られ下着が見えていて、その上に乗っているのは鼻血を流したまま真顔でのパンツに手をかけているイルミ。現状把握はできたがその過程がさっぱりだった。
 渡したお金でしっかりとプリンを買いこんで来たクロロの何とも言えない視線を受けて、

「ヒソカがいたら喜びそうだよね…」

 と言ったの言葉だけが妙な説得力を持ってその場に響き渡った。



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