「笹塚さァん!死にそうなほどの重症だって本当ですか!?おっ、お見舞い品、林檎とバナナと蜜柑持ってきたんですけどなにがいいですか!?私なんでも皮むきますよ!」
、病院では静かに」
「いったーい!なんで林檎むこうとしたら私の手の皮がむけるの!?ぎゃー血ィ出てきたァ!!」
「……」

再度トライしようとして再び手の皮をむいてしまいもう一度と包丁を手にしたら笹塚さんに取り上げられた。ぱぱっと私の手の手当てをしたあとで血まみれの林檎を見てまだ食べられるのか品定めのような目つきで笹塚さんが見てたので「鉄分たっぷりですよこれで低血圧もなおりますよあははははは!」と言ったら「…食べないよ」といわれあえなく私の渾身のお茶目は撃沈した。もったいないので部屋についてた洗面台で林檎を洗って血のついていたと思われる赤黒くなっていたところだけ切り落として笹塚さんに切ってもらった。思わず見とれてしまうほどむくのがはやくて私が真似したらもうペンが握れない手になりそうだなぁとかぼんやり考えていたら綺麗に切られた林檎の一個を口のなかに放り込まれた。うわぁびっくり!でもなにこれおいしい!って感動していたら「口開けて」って言われてまたもう一個放り込まれた。む、これは恋人同士がやるはいあなた、あーん☆というやつか!と一人テンションをあげていたら笹塚さんがちょこっと笑った。(ぎゃあ!)

「面白いな」
「うえぇ!ど、どこがですか!?」
「その百面相」

お、おおう、いつのまに私そんな大技を身に着けていたんだすごいぞ自分!で、でも笹塚さんのために八百屋さんから買ってきた林檎を私ばっかりが食べてちゃだめじゃないか!なんてことだ!おいしい思いをしたのは私だけではないか!痛い思いをした笹塚さんをちょっとでも癒してあげようとよりすぐりのものを選んで(八百屋さんのおじさんに二個おまけしてもらった)きたのにこれではいみがない!くっ、今まで林檎の皮むきなんてしたことがなかったなんて盲点だった!こんなことならお母さんにお願いして林檎の皮むきを伝授してもらうんだったー!

「わわ!笹塚さん病院は禁煙ですよ!?」
「ん?あぁ、そうか…」
「だめですよ重症なんだからおとなしくしていないと!」

笹塚さんはもう一回あぁ、って言ってタバコをしまった。あ、あれ、私が預かってたほうがいいのかな、でも未成年の私がたばこなんで持ってたら逮捕だー!っておまわりさんに追いかけられるんじゃないだろうか。こ、この年で豚箱は、いやだ…!そうなったら笹塚さんに助けを求めよう、だって刑事さんだし、うん!もう一回笹塚さんのところを向くと、いつもよりぼーっとして私のことを見てた。あ、あれ、どこかいたいのかな、パジャマの隙間から見える包帯、いたいたしいよ…。う、うん?なんだかいつもと違うように笹塚さんが見えて、なんだろう、か、可愛い?いやいや、大人の男の人に向かって可愛いはないだろうわたし!笹塚さんはかっこいいに入る部類の人なんだぞ!い、いや、でも、笹塚さん、たまに…か、可愛いだよな。年下の私がいうことじゃないんだろうけど、こう、なんだかたまらなくなるときがある。そ、それがいまだったりして、私はちょっと近づいて軽くキスを落とした。ベッドのはしにすわると、病院のあんまり丈夫そうじゃない(でも実はものすごい丈夫なのかもしれない)ベッドはきしんだ音を出した。

しばらく好き勝手やってると、笹塚さんの手が私の腕を掴んで強く抱き寄せた。わ、わわ、笹塚さん、痛いんじゃないの?!そう思ってたらなぜか私が笹塚さんを見上げる形になっててあ、あれ?いつのまに、なんだかたまに笹塚さん俊敏だよな。とそんなこと考えながらも笹塚さんがするキスを受け止める。なんか、こういうの、久しぶりだ。最近忙しいみたいで会えなかったし、張り詰めたような表情してたし、わがまま言うのはあれだけど、寂しかった。「なんか俺、禁煙できそう」キスの合間にそう笹塚さんは漏らした。

「入院してるあいだ、タバコが吸いたくなったらキスするから」
「な、ななな!」

さ、笹塚さん!その、その心がけは良いんですけどなんですかそれは!恥ずかしいじゃないっすか!たしかにこの部屋は、個室だけれども!だけれどもっ!お口の恋人、みたいなかんじですか!?ベッドから転がり落ちるみたいに降りて乱れた服を直すと笹塚さんも自分の楽な姿勢をとった。ひっぱられるようにベッドに入ったのですばやく脱いだ靴は散乱していた。それを履きなおして今度は最初に座っていた椅子に座ると、「冗談」と笹塚さんのほうから聞こえてきた。ななな、ひどい!私をからかって遊んでたのか!くっ、私のどきどきを返してくれ…!

「楽しいな」
「わ、私の百面相がですか?」
「それもあるけど、あんたと一緒にいると、楽しい」

そう言われて、その笹塚さんの声帯を震わせ空気を振動し私の耳まで届いたそれを脳みそが理解したら、私は真っ赤になってしまった。寂しい、寂しかった気持ちはもう消えうせて、私は明日も下手な手さばきで林檎をむきにここに来るのだろう。笹塚さん、私、あなたといるとしあわせです。









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