なんでこんな状態になってしまったのか分からない。まったく分からない。私はただ、夕飯を作ってと言われたので、その通り夕飯を作りに来ただけなのだ。それだけのはず…なのだが、これはなんなのだろう。右足だけ正座しているみたいに折りたたんであるからぴりぴりとしびれてきた。変な風に曲がっている上に私のものじゃない足が絡みついているから体制を直そうにも直せないし、いや、ちょっ、がんばればいけるんじゃねーのコレ、うっ、もうちょっと…う、んっ、…よっしゃあ!まっすぐになった。よし、これで一安心だ右足のつま先にもちゃんと血液が送られる。そう私が一人でもぞもぞしているとその動きを感じたのか、私に抱きついている状態のユキの腕の力が強まった。ちょっ、待て待て待て!お前自分の力の強さ知らないのか!?なんでそんな全力で抱きついてくる必要があるんだ…っく、苦しっ…!!


「くっ…こらユキ…っ!ちょっ、力緩め…」
「………。あー…?」
「気付いてなかったのかよ…」


ちなみに今の私の状態はと言うと、ソファの上で半分落ちそうになりながらユキに思いっきり抱きしめられてるというか絡め取られているというか、まぁ、そんなぎりぎりで危ない(いろんな意味で)状態なのだ。何故こんな状態になったかというと、私にもよく分からないのだが、夕飯を作り終わってユキを呼びに来たところ、ソファの上で健やかに眠るユキを見つけて起こそうとしたところ、寝ぼけたユキにあれよあれよという間に引っ張り込まれたということだ。テレビを点けっぱなしで寝ていたから疲れてるのかな、と思ってちょっと待っていたのだが、起きる気配がなく折角作った夕飯が冷めそうだったので仕方なく起こしたのだが…こいつ、こんなに寝起き悪かったっけ?


「…なにしてんだ?」
「こっちの台詞だよ!」


まだ半分寝惚け眼でこちらを見るユキは思いのほか可愛かったが、その口から出てきた言葉には大いに反論がある。もう一度言おう。こっちの台詞だよ!そう言うとユキはまだ私を放さない状態でんーと唸った。…なんていうか、ユキの頭…顔?は私の胸あたりに位置しているので、そこで唸られると振動が伝わってきて…あれだよ、ほらあれ、なんともいえない気持ちになる。しかもまだ寝惚けているのか、ユキは胸に顔を埋めてくる。これは…いくらなんでもちょっと恥ずかしいのだが…。ユキは私がそんなことは気にしない女だと思っているのだろうか。そんなことは無いのだが…ここでそう言ってもユキは止めないだろうからそのまま身を任せてみる。


「ユキ…ユキ?ね、ご飯冷めるよ」
「ん?うん…」
「ほら起きようよ」
「んー…」
「………」
「………」


話しかけても生返事しかしなくなった。どうしろと…。もしかしたらまた眠ってしまったんじゃないのか。軽く揺すってみても反応はない。……。


「ユキ…?」
「………」


返事がない。唯の睡眠不足のようだ。私は小さく溜息を吐いた。暫らくはこうしていなくてはいけないらしい。いや、あったかいんだけどさ、あったかいんだけど…確かにさ、ユキに抱きしめられてうれしくないとは言わないけど、それは状況にもよるよね。うーむ、まさかこのまま放さない気じゃないだろうな…。寝てるんなら…もしかしたら力弱まってるのかも…。私はユキの後ろに回された手をそっと引っ張ってみた。すると思いのほか簡単にそれは解けて、私は晴れて自由の身となった。起こさないように気を使ったんだけど、うん…こうしてみるとあっけなかったよな。

横向きで寝ているユキの顔を覗くと、案外まだ幼い寝顔がそこにあって、思いがけず私の中に眠る母性本能が疼いた。それと共にいたずら心も疼いた。いたずら心というか、ちょっとその寝顔が可愛すぎたというか、つい私は寝ているユキに唇を重ねた。少し薄いけど、ちゃんと柔らかくて、その、なんだ、…ごちそうさまでした。やばいな、これちょっと変態みたいじゃなかったか?と思ったが、ユキは起きないし誰も見ているはずがないので、もう一回いただいた。(いただいたって自分…)(最近変な表現しかできなくなってきたな)くそっ、可愛い、可愛い、好きだ好き。大好きだ。そんな想いがキスしているうちにどんどんと溢れてきて、もう何回目か分からないほどキスをしていると、いきなりまた重ねたところで頭を掴まれた。流石に深くすると目を覚ましちゃうな、という分別はあって今までは軽くしていただけなのだが、私の頭を捕まえたのは逃がさないためなのか、深く入れるためなのかは分からなかったが、とにかくユキの舌が私の口内を暴れる感じで蠢いた。…っ、こいつ、本当に寝起きかよ!というくらいぐちゃぐちゃにされて、ようやく開放されたときにはたぶん五分経っていたのではないだろうか。(だろうか、と語尾が不安定になるのはぐちゃぐちゃにされすぎて、よく時間間隔なんて分からなかったからだ)

へにゃっとソファの横に座り込んで崩れかけた私をユキは支えて、最後に一回こめかみあたりにちゅっと唇を当てた。少し睨みつけると、微妙に熱っぽくなったユキの瞳と視線が合って、思わず逸らしてしまった。…なんだよ、色っぽいなぁ。


「…顔赤いよ、ユキ」
もだろ」
「いつから起きてた?」
「ん…最初から」
「そう、最初か…って、え」
「あんなにキスされるとは思わなかったけどな」
「………」


な、なんだそれは…!それじゃあ私はただの欲求不満の女みたいじゃないか!く…っ、寝たふりしやがって!恨みを込めて睨みつけてやったが、にやりと笑っただけでユキは立ち上がった。ついでに私に手を差し出してきたので、癪だったがその手を掴んで立ち上がった。また顔を近づけてきたので思い切り頭突きをしたが、私にもダメージがあって引き分けみたいな形になった。渋々引き下がったユキの手を引いて台所へ行く。たぶん、料理は冷めてるんだろうな。




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