の知る彼は、年相応なのだろうかわがままで、自分に対しては少し意地っ張り。それは自分に対して気を許している所があるからだということに気付いていても、自身もまだ大人に成りきれていないので意地になり返してしまうときもある。本当にお互い素直ではない。


「へ、あ、ええ?」
「…なんて声出してんの。すごい間抜けな顔」


目の前にいるのは明らかに不機嫌そうに嫌味を言い放った結也がいるのだが、それに対する怒りはには沸いてこなかった。もう日付も変わろうとしている時間、いきなり訪問してきての一言目がそれだとしても、だ。いつもの自分ならば確かに意味不明な言葉を発してしまったがそこまで言うことないじゃないか、と詰め寄るのだろうが、あいにくとの思考はそこまでは及ばなかった。その理由は目の前の男の格好にあった。


「…どうしたの、それ。心境の変化?でも、明らかに着てるというよりは着られてるといったほうが」
「うるさいな、早く入れてよ。いつまで外で待たせる気」
「はいはい、分かったからその不機嫌そうな顔、やめてよね」
「にやにやするな」
「…くくっ、してないしてない」


入ってくる際にも少しよろめいている姿は思いのほか可愛く、またしても顔の筋肉が緩んだが、軽く一睨みされるとは表情を引き締めた。結也と、スーツ。なんて似合わない。


まるで我が物顔で結也がの部屋のベッドに腰掛けると、さすがに呆れたようには笑った。自分もそこへ行く途中、思いついて冷蔵庫にあったお茶を取り出してはい、と渡す。結也はそれを無言で受け取ると、一気に飲み干した。自分の分のお茶も確保し、その横へと腰掛ける。少しだけ結也が身じろいだ気がするが、気にせずお茶を飲む。冷たい液体が体の中を通るのが分かった。少し前にお風呂に入ったから余計そう感じるのかもしれない。


一息つけると、は結也のほうを見た。相変わらずぶすっとしていたが、来たときよりは表情が和らいでいる気がする。結也がのところへ時間を気にせずに来るときは大抵何か嫌なことがあったときだ。はそれを分かっている。だから、落ち込んでいる結也を慰めるのは自分の仕事である。これは依存なのかな。いやいや支え合いですよ。


隣に座ったまま、床の一点だけを見つめる結也の頭を引っ張って、自分の肩に押しやる。少し抵抗したが、それ以上の力で押さえつけると大人しくなった。表情は見えない。引け寄せた手は未だに結也の頭を抑えている。そのまま頭を優しく撫でると、ぴくんと結也は反応した。そうやって反応するときは決まって結也はのことを伺っている。本人は無意識なのだろうが、これだけ密着をしていれば嫌でも分かる。試されているのだろうか。いや、しかし結也はそこまで打算的に自分と付き合ってるのではないことも知っている。その考えはすぐに霧消した。は覗き込むように結也に顔を近づけて、小さく口付けた。


「…いやだ、今そんな気分じゃない」
「結也」


すぐに顔を背けられたが、気にせず追いかけてもう一度小さく口付けた。今度は逃げない。それを何度か繰り返していると、お互いの熱が少し上昇したのが分かった。視線が合う。結也の瞳の中には確かに熱を帯びていた。溺れさせたい。最初にそれが頭を過ぎった。もう一度口付けると、薄く開いていた唇を割って中へ進入した。動かない、でも熱い舌に触れるとぴくんと反応した。その反応が気に入って、今度は絡めるように触れる。弱く返ってくる反応のせいで、余計に自分の熱は熱くなった。


「結也」
「…ん」


ベッドの上に横になるように押し倒して、その上に乗る。結也が不思議そうにを見上げると、は少し楽しくなってきた。たぶん解き方が分からなかったのであろう、しかし努力の跡は見えるぐちゃぐちゃになったネクタイをするすると解くと、結也は微妙な表情になったがそれは気にしない。シャツのボタンを外し、露になった白い肌に口づける。強く吸うと、赤い跡が綺麗に散った。もう一度やろうとして、結也は上半身を起こしてを見た。その瞳は、先程よりも確実に熱を帯びている。が、まだ足りない。もっと、もっと。何も考えれないくらいに滅茶苦茶にしてやりたい。結也。私の、結也。


「…今日は、結也は何もしないで」
「ん。…が全部してくれんの?できる?」
「私だってそれくらい、できるよ」


向かい合って息がかかる距離で囁きあう。そして時折口付ける。絶対にもっと離れたほうが話しやすいのだが、それはもう頭にはない。頬に当たる息が熱い。既に熱を持っている結也のそこに手を当てると、結也は少し身を引いたが、それに気にせず前を寛げる。そっと中へ手を入れると熱いものに行き当たる。ゆるゆると手を動かすと徐々に芯を帯びていくのが分かる。顔を顰めて耐えるような表情になった結也を見て、は心臓が妙に高鳴った。その視線に気付いたのか、結也は逃げるように顔を逸らして赤い顔のまま呟くように言った。


「っ 、…、電気、消してくんない」
「あはっ…結也は、たまに乙女だ」
「う、るさい。お前が、大雑把なんだ、っ」
「…結也の顔、よく見えるから好きなのに」
「そういうところがうるさいって言うんだ」


赤い目で睨まれても怖くは無かったのだが、結也の頼みだ、聞き入れないわけにはいかないだろう。は長く伸びている紐を引っ張る。カチ、という音と共に視界が黒に塗りつぶされた。だが、まったく見えないというわけでもない。半分勃ち上がった結也の熱を外へ取り出すと、一瞬結也の体が強張ったがの手の動きによってそれはすぐに砕けた。輪郭だけだが、ちゃんと結也の顔は見える。頬が赤い。息も荒い。いつもは自分がこうされているので、新鮮だし何よりこの反応は可愛い。微弱な刺激しか与えていないのだが若いそれは既に完全に芯を持っており、先からは濡れたものがあふれている。自分の頬も赤くなっているのだろう、顔が熱い。の胸に一筋熱い何かが走ったと思うと、不意に結也の手がに伸びてきた。


「、っ!なに、…っん」
「俺ばっかりは、やっぱり性に合わない」
「あっ、やだ私が今日はやるって…、ふぅっ」


着ていた衣服をたくし上げられ、熱いの手の中のそれと違いひんやりと冷たい結也の手が膨らみに触れた。下着の中に手を入れられ、敏感な部分を弄られる。片方だけ触られているのに、もう片方も甘くしびれている。俯くように下を向くと、額が結也の伸びた腕に当たり縋るようにそれに頭を擦る。暫らくこねられて、たまらなく嬌声を上げそうになったところで開放されたと思ったら、今度はその手はそのまま下へ伸びていっては慌てた。その動揺を優しくなだめるかのように結也は頭をのそれに甘える仕草で擦り付けると、途端から力が抜けた。滑らかな肌をすべりそこへ手を這わせると、既にそこはしっとりと濡れており指は難なく中へ這入った。小さくがうめいたのを聞くと、中を弱く擦る。耐えるような吐息が聞こえてきて情欲に濡れた瞳で見つめられた。は止まっていた自分の手を動かすと、微かに呻き声が聞こえた。もう、欲しい。どちらでもなくそう感じ、は自分の下穿きをすべて脱ぎ捨てると膝立ちになって結也へくっついた。肩に手を置いて、ゆっくりと下へからだを下ろす。徐々に結也の熱が自分の中へ這入ってくるのを感じ、甘い声が自分の口から漏れ出た。既に受け入れる準備はできていたそこに痛みはなく、奥に入ってくる摩擦で体には甘い痺れが走るばかりだ。


「あ、はぁ…」
「…、…、動ける?」
「ん…」


肩に置いた手に力を入れて、体を持ち上げる。ゆるく中が擦られて途端はたまらなくなる。生理的な涙が頬を流れ出た。再び体を下ろし、また上げる。暫らくそれを繰り返していると、いきなり後ろへと倒された。背中に当たるシーツさえも快感に変わる。久しぶりにしたからか、今日はやけに気持ちが良い。自分のほうが何も考えられなくなる。強くゆすられ、奥を突かれるたびに高い声が上がる。目を開けて上を見ると、結也が見える。顔を顰めて、声を殺している。感じてくれているのだ、結也はそうやって我慢する癖がある。その姿は逆にいやらしいのだが、それを言うともう見せてくれなくなる気がするので言わないことに決めている。お腹のほうからじわじわと何かが競りあがってくるのが分かった。自分の手の甲を口に当て、目を強く瞑る。数回、自分の体が小さくはねた。脳天まで突き抜ける快楽が走った。それにより中を強く締め付けられて結也もの中へ熱い欲望を叩き付けた。お互い肩で数回息をして、それを整える。閉じていた目を開けると目が合った。いつまで経っても少しだけ照れくさい。少し笑うと、結也も笑い返してきて唇をのそれに押し付けた。


「…、…平気か?」
「うん…」


ぼうっとした名残の中ではそう答えると、自分の中から結也が引き抜かれる感覚を感じた。いつだって直後は奇妙な高揚感が漂う。目の前でゆれている髪の毛をそっと掴むと、結也は笑っての横に倒れこんだ。もう最初の刺々しさは感じられない。和んでくれているのだ。自分で。…うれしい。手を伸ばして結也の頭を撫でる。柔らかい感触を楽しんでから、結也の胸に甘えるように頭を擦りつけた。抱き込まれるように抱えられるが、それも気持ちが良い。は結也のネクタイを外すことも頭も撫でることも出来る。結也もそれを望む。何も言わずに分かり合うことなんて出来るはずなんてないが、これはお互いが素直ではないだけ。明日はきっと笑って見送ることが出来るだろう。まどろみながら見た表情は、とても優しかったから。






星の下の逃避行



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