※バイオレンス注意。苦手な人は見ないほうがいいです。









振り向いたと同時に上から強く押さえつけられるように唇が合わさった。驚いて振り払おうとしても抵抗すればするほど強い力で抱きしめられ、最終的に身動きすらままならない状態へと持っていかれた。貪る唇に吐き出す息ごと飲み込まれ息苦しさに目を強く瞑る。手加減など知らない腕の中へ抱きしめられ、唯でさえ息が苦しいのに目の前の男は容赦などしてくれない。思わず侵入してくる舌に歯を立てると、一瞬男の動きが止まったが、それだけで構わず口内を犯してくる。口の中へ慣れない鉄の味が広がり眩暈がした。執拗に舌を絡める男に心の中で悪態を吐きつつも、背筋に上る熱は自分では止められるものではなかった。

「っ、む、 い、ゃだ」

角度を変える毎に切れ切れに拒絶を表してもそんなものは気にしないと言わんばかりに口付けは深まるばかりだ。本当に噛み切ってやろうかと考え、無意識に目が鋭く細められたのを男は見止め、ようやく唇を離した。そして新鮮な空気を吸い込むと共に出てきたのは罵声だ。

「、最低…っ!」
「今更だろ」

今までにも戯れで口付けをしたことはあった。しかしそれは軽く啄ばむ程度のもので、ここまで深いものは初めてだった。だが体を重ねたことがないわけでもなく、だが自分たちの関係は何なのだろうと考えたことは不思議と無かった。男の言い放った言葉にかっとなり、思わず手を横に薙ぐが簡単に受け止められる。こんなときに自分の女である非力さが憎くなる。一発くらい、大人しく殴られろ!

男は女の手を掴んだまましばし何かを考え、そのまま女を床へと叩き付けた。背中を強かに打ち据え、女の肺から空気が吐き出される。…、本当に、手加減というものを知らない。起き上がる間も無く男が女の上に覆いかぶさってくる。蹴り上げようと繰り出した足は上から押さえ込まれ、そのまま大きく開かれる。胸元で布が裂ける音が聞こえてきて、の目の前は真っ赤に染まった。殺す、殺してやる!赤く染まった瞳で睨みつけると男は口端に笑みを湛え、再びのそれへと重ねた。





「う、ぐっ、ああっ」

生理的な涙が頬を滑る。それすらも男は舐め取って、に更なる屈辱を与えた。(くそっ…たれ!)大きく開いた足の間には男の猛ったものが埋め込まれている。そこから聞こえる水音は、自分のものか、男のものか。慣らしもしないで暴かれたそこには痛みしかなく、引きつるようなこの痛みは裂けて血が出ているのかもしれない。

男がの肩口に顔を埋め、大きく息を吸う。小さな声で、何かを呟いたがにはそれを気に留める余裕はない。ちくりと肩口に痛みが走ったと思えば、男がそこに小さく歯を立てている。急所に歯を立てられたことにより恐怖が生まれたが、既に麻痺した頭では抵抗することはできない。そしてそのまま、目を逸らすことなく男が自分の皮膚に歯をつきたてるところを見てしまった。痛みと共に赤い鮮血が何筋も流れ出るのが見えた。その間に見える歯がやけに白い。

「いっ、うァ、ああっ、」

赤い血を舐め取る男の姿を視界に捕らえ、ついに生理的ではない涙がからあふれ出た。何故こんなことになってしまったのだろう。いつもどおり、仕事の話をして、そして立ち去る。たまに興が乗ったときに相手をする。それだけで、他には何もない。人気のない場所へ引きづられ、力任せにキスをされて。こんなのは全然普段どおりではない。初めての展開についていかない頭でも危険だということは分かっていたが、抵抗らしい抵抗も出来なかった。相手は裏では名の馳せている男だ。油断していたわけではないが、ここまでだと自分の不甲斐無さに涙が出てくる。

「こ、ろしてやるっ…!」
「はっ…聞き飽きたな」
「なん、なんだアンタはっ、なんで…」
「…」

の質問には答えず、男は律動のスピードを上げた。内側をえぐられる痛みに唇を噛んで必死に耐える。鉄の味が口の中へ広がったが、気にしている余裕は既に消えうせた。うっすらと目を上げると見える男の口の周りに、自分の血がこびりついているのを見るとぐらりと視界が揺れる。殺意だけで人が殺せたらとこれほど強く思ったのも久しい。一層強く打ち付けられて、奥に熱いものが注がれる。

いつの間に抜かれたのか、それすらも分からなかった。先程まで麻痺していたあまり感じなかった痛みが肩口と股の間から発せられた。体を起こそうとするが、まだ上に男が乗っていて思うように出来ない。終わったのならば、早くどいてどこへでも行けば良い。それなのに、こいつは何をしているのか。何故そんな目で私を見るのだ。私は射抜くような瞳でしか返す事が出来ない。

「なんでアンタ…、俺のものにならねぇんだ」
「…は?」

ぽつりと呟かれた言葉には呆然とした。頭が理解できない。どうしたらそういう言葉が出てくるのか、全然分からなかった。そんなことを言われたことなんて一度もないし、素振りも見せなかった。それなのに、何故今。何故こんな行為をした後に言うのだろうか。体の痛みも忘れてまじまじと男を見上げる。その瞳には何故私が困惑しているのかがまったく分からない、という色が浮かんでいる。(……)はどう反応していいか、その方向を見失っていた。本来ならば、殺してもいいと思うくらい憎い相手だ。だが、先程の言葉にはそれを霧消させるほどの威力があった。もしかしたらそれを狙っての言葉かもしれないが、真偽のほどはには判断できない。

「…アンタ、何言ってんの」
「言葉のまんまだろ」
「なんでそんな言葉が出てくるのかが分からないって言ってる」
「なんで?そんなの決まってるだろう」

開いた口がふさがらないというのはこんなことを言うのか、とは知りたくないことを身をもって体験してしまった。は勘が鈍いというわけではなく、人並み以上であろう。だが、この流れは、明らかにおかしい。ここで愛の言葉でも囁くつもりかというほど男の表情は真剣だ。ならば何故こんな行動に出たのか。不器用と言うのはあまりにも行動が凶悪すぎる。とりあえずどかせることが先決だと思い、上に乗っている男を手で押した。痛みが肩に走り、思わず顔を顰めてしまう。思っていたよりは傷は浅く、血も既に止まっているが痛むことに変わりはない。野生の獣か、と悪態もつきたくなる。

「痛むか」
「…当たり前」

着ているというよりは引っかかっていると言った方が正しい衣服を整えるが、裂かれた服は直し様が無い。不幸中の幸いかコートがあるので隠れるだろうが、ここまで無残に破かなくてもと思わず手が出てしまうかと思った。そしてしばし考えてから、すこし言い難そうには口を開いた。

「……アンタさ、」
「…?」
「私が、好きなの?」

これが勘違いだったら死ぬほど恥ずかしいのだが、先程の男の言動をまとめるとこういうことになるのだろう。そしてそれは当たっていたらしく、何を今更、という顔で逆に見返された。(…こいつ、おかしい)分かってたが、そう思わずにはいられなかった。一度もそういうことを聞かれていない、ということは受け入れるかは別として拒絶もなにもしていない。それを早とちりしての行動?…ふざけるなと言いたくもなる。

「…馬鹿だとは思っていたけど、ここまでだとは思わなかった」
「どういう意味だ?」
「そのままだよ…、まぁいい。一発、殴らせろ!」
「っぐ!!?」

男にの強烈な拳が炸裂した。もちろんグーで、しかも殴った場所は顎だ。容赦も何も無いが、受けた仕打ちを考えれば仕方が無いことなのだろう。殴られたほうより殴ったほうが痛いんだ、とは言わないが、それなりに殴った拳も痛い。本当ならば悶絶しているこの男にもう一発、蹴りでも入れてやりたいのだがあいにくともう力が入らない。深く溜息を吐いて、は男を見た。早坂幸宜。昔はどこかの会社の用心棒的な存在だったこの男が、兄と共に会社を立ち上げたと聞いたのは二ヶ月前だ。情報屋である自分にその話が流れてこないはずも無く、それを知ったときは驚いたがこの男が得意の客だということに変わりは無かった。

だが、そんな視線で見られていたことなんか知らなかったし、そういう関係を望んでいるとも思えなかったのだが、……。意外と普通だ、この男。私だってそんなにほいほいと関係を持つことなんてないのだが、そりゃあたまには、ある。そのうちの一人だったわけなのだが、どこかで自分が他の人間とも関係を持っていたことを調べたのか。自分だけじゃないと知っての凶行か。…アホくさい。既にの中からは殺気は消えうせ、呆れたものだけが占めている。目の前の男への対策も考えなくてはならない。はっきり言って面倒くさいことこの上ない。だが、これからもこんな風に愛情表現されたら、身は持たない。ああ、持たないだろう。

「…てめえ」
「自業自得だ。私はもっと痛かったんだからそのくらい我慢しな」
「…いい女だよな、本当に」

…。もしかしたらM気質があるのかもしれない。頭が痛くなってきた。

「…アンタ、私の本名知ってるの?」
「調べた」
「…、知らなかったら振ろうと思ったのに…」
「……」
「ま、いい。私のことは本名で呼びなさい。話はそれからだ」
「…それって」
「何も言わない。私はもう、疲れたんだ」

肩が痛むし、体も埃くさい。服だってどうにかしなければならない。本当はこんな狂犬の相手なんてしてられないのだが、…。名前を呼んでくれたら、少しは優しく接することが出来るのかもしれない。













を知ってもいいですか

(とんでもない奴に好かれたということは、分かっている) inserted by FC2 system