ああんどうして男の人の背中ってあんなにも私をときめかせるのだろうかどうしようものすっごいきゅんきゅんするんですけどあの背中なんていうの?蹴りたい背中?いや私はあの背中は蹴りたいというよりも飛びつきたいですというよりもあの長い足で蹴っていただきたいです。ああでもあんなステキな背中を持つ方にそんな私みたいな一日の糧が妄想です、みたいなお友達にお前本当に女子高生?みたいな視線を気付いたらいつもかけられているような人間を踏んでもらうなんておこがましい真似をさせるわけにはいかないわ! 私の趣味はナイス!背中ウォッチングというネーミングセンスを疑う名前のもと行われる背中好きによるの背中好きのための背中観察なのだ。活動内容は至ってシンプル!ただなんて男らしい背中なんだ!というか自らがびびっときた背中を街中で見つけてそれをいやらしくただただいやらしく見つめるだけだと言うなんとも気持ちの悪いそんなものなのだ。…こんなことを言ってしまったら私が背中フェチだと勘違いされそうなので嘘をつくのはここまでにしておいて、本当はあれですよあれ、あのなんともステキな背中、というか全体?全体からもうフェロモン的な女王質フェロモンというか性フェロモンというかそんな色香をもんもんと出していたいけな女子高生(私)を惑わすあの方をただただ見つめているだけですよ。本当、見ているだけで目の保養になるとかどんだけ私あの人のこと好きなんだっつーの! 「ちゃん」 「うん?どうしよう私遂に笹塚さんの幻聴まで聞こえるようになったのかあっちゃーどうしようこれでも興奮する」 「幻聴じゃないんだけどな。まさかとは思うがそういう薬に手出してないよな?」 「……っぶーー!!!!」 幻聴だとしてもなんてステキな声の幻聴なんだろうかこれがあれば毎日に色が付くぞうっへっへーと思っていたら普通に笹塚さんが私の目の前まで来ておられて私はなんにも飲んでいないのにまるで口の中にものが含まれていたかのようになにか得体の知れない何かたぶん夢とか希望とかそこらへんのものを噴出してしまいどうしようこれ好きな人の前でそんなものを噴出してしまうなんてこれは乙女のピンチではないのだろうか。 「あんた、またつけてたのか」 「ああああ、すいません笹塚さんやっぱりお仕事中でしたかお邪魔しましたか」 「いや、なんか背中にやけに視線感じるなと思って振り返ったらちゃんがいたから」 「すいません今度からはお仕事の邪魔にならないように気配を完璧に消す訓練を行ってからつけますんで」 「いや、つけなくてもいいから」 実はこれが初犯じゃないんです…そうです私笹塚さんのフェロモンに誘われるがままに何度もこのような愚考を行っておりまして、お優しい笹塚さんはいつも私を見つけては構ってくださるなんとも人間の出来たお方でして、なんていうか、その、好きだーー!!! 「俺見かけたら、声かけてくれていいよ」 「えっ、でもそれじゃあ笹塚さんのお邪魔にならないかと…」 やはり思ったとおりさすがは笹塚さんだ。後ろから見ると背中、前から見るとなんていい足をしておられるのだこの方は神か。いやいや背中とか足とか言わずに全てのパーツが素晴らしいナイスボディバランス! 「そのくらい、大丈夫」 「そ、そうなんですか?」 「ちゃん放っておくほうが俺は気が気じゃない」 「さ、笹塚さん私そんなに頭のいいほうじゃないのでそういった言動をなさると勘違いをしてしまいそうで一人舞い上がってしまいます」 「勘違いしていいよ。俺も今ちょっと舞い上がってるから」 私の長年の笹塚さんを見続けてきた☆アイ!は笹塚さんの色々な普段との差異を見つけることに長けているのだ。普段よりも伏せられた視線に一分間で三回増えた瞬き。え、え、え、笹塚さん!?これってどういうことなんだこれこそドッキリか私が感動して笹塚さんに飛びついたところでさっと避けられてざんねーん、ドッキリ成功!みたいな展開になるんじゃないのか!?と三秒の間でそこまで考えたにも関わらず私はもう 笹塚さん>>>>(越えられない壁)>>>>自尊心や恥 なのでそんなの関係ないんだよちくしょーーーーーと鼻血が出そうになるのをなんとか堪えて笹塚さんを見つめなおした。 「後ろよりも、横にいて欲しいな、ちゃんには」 「っ、さ、笹塚さん!」 差し出された笹塚さんの手は男の人っぽい、ちょっとごつごつしてて私のなんかとは比べ物にならないほど大きくて、ああ、私もう笹塚さんならどこでも好きなのだなあ、と思いました。
そして透明の夏 |